令和8年度(2026年度) 基盤研究(S) ヒアリング説明資料

チタンの生産技術に革命をもたらす
新製錬・凝固・鋳造技術の開発

東京大学 生産技術研究所
教授 岡部 徹(研究代表者) / 講師 鳴海 大翔(研究分担者)
令和7年12月25日
案内パンフレット: 本プログラムの概要及びプロジェクトの計画 PDF file: (--KB) TBA
参考資料: PDF file: (330KB) (2026.4.22 updated)

研究テーマの概要と意義

高度循環社会の確立を
目指した材料工学
→長期的な視点に立った基盤研究
Titanium リサイクルロゴ
チタンの革新的な
リサイクル技術の開発
→新規なリサイクル技術に必要な
要素技術の開発に関する基礎的研究

資源を持たない我が国は、高い付加価値の工業製品を全世界に輸出することによって世界に貢献する必要がある。そのためには、高品質のレアメタルを多量に生産できる社会基盤を構築することが不可欠である。

チタンスクラップ(都市鉱山)からレアメタルを効率よく回収・再利用する新技術の開発は、資源セキュリティーという観点からも非常に重要かつ緊急の課題である。世界に先駆けてチタンのアップグレードリサイクルに関する学術分野を切り拓き、今後も日本が当該学術分野を世界の中でリードし続けることの社会的意義は大きい。

本研究では、研究代表者が独自に開発した「極低酸素レベルまでチタン中の酸素を直接除去する技術」を応用して、高酸素濃度のチタン合金から直接低酸素濃度のチタンが製造可能であることを実証し、これを連続鋳造する革新的なチタンの製造法の開発を目指す。さらにこの技術をチタンスクラップの再生利用に応用し、鉱石から製造するよりも低酸素濃度(高純度)のチタンをスクラップから直接製造するアップグレードリサイクル技術にも展開する。

オキシハライド塩をチタンの溶解・鋳造に応用する例は、世界初で革新的である。

チタンとは何か:歴史と現在

チタン発見から工業化まで

1791年
R. W. Gregor(英)により menachanite という鉱石として発見される。
1795年
ドイツの化学者 Klaproth によりルチル鉱石の中に再発見され、「チタン」と命名される。
1887年
L. F. Nilson と O. Pettersson が TiCl₄ をナトリウムで還元し、純度約94%のチタンを製造。
1910年
M. A. Hunter が TiCl₄ と金属ナトリウムを反応させ、純度99.9%のチタンの製造に成功。(元素の発見から119年)
1946年
W. Kroll が TiCl₄ を金属マグネシウムで還元しスポンジ状チタンを製造する「クロール法」を開発。工業的な生産が始まる。酸素を含まない反応系を利用するため低酸素濃度を実現できるが、高コスト・低効率のバッチプロセス。
現在
年間約20万トンのチタンが製造されており、今後も需要は増大し続ける。
チタンは酸素との親和力が強く、製錬がもっとも難しい元素の一つ。金属の中では比較的新しい素材であり、今後の大いなる発展が期待される。

クロール法(Kroll Process):現在の量産法とその限界

図1 クロール法の工程概要
図1 クロール法の工程概要

現在のチタン量産法であるクロール法は以下の工程からなる。

塩化反応: TiO₂ + C + 2 Cl₂ → TiCl₄ + CO₂ 還元反応: TiCl₄ + 2 Mg → Ti(スポンジ)+ 2 MgCl₂ 電解還元: 2 MgCl₂ → 2 Mg + 2 Cl₂ ────────────────────────────────── 総括反応: TiO₂ + C → Ti + CO₂ (+膨大な電力)

クロール法は比較的高純度のチタンを製造できる反面、バッチ式で複雑なプロセスのため生産速度が低く、膨大な電力を消費し大量のCO₂を発生させるという根本的な課題を抱えている。

チタンの需要動向:航空機産業を中心に

世界の生産シェア

図2 スポンジチタンの年間生産量の推移(USGS)
図2 スポンジチタンの年間生産量の推移(USGS)

近年、中国のチタン生産が大幅に増大しており、中国・ロシア・カザフスタンの3か国で世界生産シェアの約80%を占める。日本は世界第二位の生産シェア(約20%)を維持し、欧米の航空機産業に高品質のチタンを供給し続けている。

航空機産業とチタン需要の拡大

図3 商用航空機のチタン合金使用割合の推移(重量比)
図3 商用航空機のチタン合金使用割合の推移(重量比)

航空機の軽量化・高性能化が進むに伴い、機体に占めるチタン合金の割合は一貫して増加している。1960年代の機体では数%程度だったが、ボーイング787型機では機体重量の約14%(約12トン)がチタン合金となっている。この傾向は今後も続くと予測される。

図4 航空機産業におけるチタン材料の割合と部材製造の概要
図4 航空機産業におけるチタン材料の割合と部材製造の概要

チタンスクラップ問題と脱酸技術の必要性

チタンスクラップの大量発生

チタン合金部品の製造工程では、素材の80〜90%がスクラップ(削り粉など)として発生する。ボーイング787型機1機の製造に際して約12トンのチタン合金部品が使用されるが、その製造過程で約90トンものチタンスクラップが生じる計算になる。

チタンスクラップを再溶解すると必ず酸素濃度が増加する。現時点では、酸素濃度が高いチタンスクラップから直接酸素を除去する工業プロセスは存在しない。

チタンスクラップのマテリアルフロー

図5 チタンスクラップのマテリアルフロー(マテフロ)と不純物酸素濃度の関係
図5 チタンスクラップのマテリアルフロー(マテフロ)と不純物酸素濃度の関係
図6 現在の日本のチタン輸出状況と課題
図6 現在の日本のチタン輸出状況と課題

現状では、高酸素濃度スクラップ(2,000〜4,000 ppmO)は一次原料のスポンジチタン(〜500 ppmO)で「希釈」することによってのみ循環利用されている。チタンの生産量が増加するにつれて、このカスケードリサイクル(低品位利用)には限界が生じる。

チタンは製造時に多量のCO₂を発生し、莫大な電力を消費する。チタンスクラップをアップグレードして循環利用できれば、輸出しないほうが環境にやさしく、経済的であることは明らか。

最近の大きなブレークスルー

溶融チタンから直接酸素を除去し、200 ppmO の低酸素濃度チタンを直接製造する革新的な技術が発明・開発された。(現在の高純度スポンジチタン中の酸素濃度は約500 ppmO)

脱酸反応の原理

O(in Ti(l)) + 2/3 Y(l) + 1/3 YF₃(l) = YOF(s, l) @ 2000 K

希土類金属イットリウム(Y)とフッ化イットリウム(YF₃)の混合フラックスを溶融チタンに添加することで、チタン中の溶存酸素をオキシフルオライド(YOF)として固定・除去する反応を利用する。

実験装置:コールド・クルーシブル炉(水冷銅坩堝)

図7 実験装置の断面模式図とスカル炉の外観
図7 実験装置の断面模式図とスカル炉の外観
図8 溶解前後のチタン試料の写真
図8 溶解前後のチタン試料の写真

Ti 融体の直接脱酸にインダクション・スカル炉(コールド・クルーシブル炉)を採用。高周波誘導加熱によってTi融体が撹拌されることで、脱酸反応が均一かつ高速に進行する。フラックスはピンチ力が作用しないためインゴット外部に自然排出される。

実験結果:極低酸素濃度(200 ppmO)のチタンインゴットが得られた。
この値は現在の最高品位スポンジチタン(〜500 ppmO)を大きく下回る、世界最高水準の純度である。

T. H. Okabe, G. Kamimura, T. Ikeda, and T. Ouchi: 'Direct Production of Low-Oxygen-Concentration Titanium from Molten Titanium', Nature Communications, 15 (2024) 5015. https://doi.org/10.1038/s41467-024-49085-4

本研究の概念と学術的独自性

研究の概念図

図9 本研究の概念図(新製錬・凝固・鋳造プロセス)
図9 本研究の概念図(新製錬・凝固・鋳造プロセス)
図10 チタンスクラップから低酸素濃度チタンを製造する工程図
図10 チタンスクラップから低酸素濃度チタンを製造する工程図

2ステップからなる革新プロセス

Step 1:Ti の溶解と脱酸(不純物酸素の直接除去)

Ti 原料(スポンジ Ti、Ti スクラップなど)を加熱し、脱酸剤(Y, La, Ce など)とフラックス(YF₃, CaF₂ など)をオキシハライド溶融塩系で反応させることで低酸素濃度のTi融体を得る。

[O]in Ti + 2/3 Y + 1/3 YF₃ → YOF または y [O]in Ti + (x − z/3) Y + z/3 YF₃ → YxOyFz

Step 2:低酸素濃度 Ti の直接連続鋳造

オキシハライドを主成分とする耐火材とモールドフラックスを使ってチタンを連続鋳造する革新的な手法。水冷Cu るつぼを用いる従来法に比べ、Ti の溶解・鋳造プロセスの大幅な省エネルギー化が可能となる。また、鉄鋼やAl合金のようにプロセスを高速化できるため、これまで技術的に不可能とされてきた低コストのTi合金の大量・高速生産の実現を目指す。

基礎研究との両立

Ti-RE(希土類)系の高温における材料物性データは乏しく、学術的にも不明な点が多い。本研究では凝固・鋳造法の高度化と並行して、希土類を含む反応系の熱力学的解析・基礎研究も精力的に展開する。長期的には酸化チタン(TiO₂)から直接、低酸素濃度の高純度チタンを製造する新精錬法の開発を目指す。

予備実験の成果と研究の進展

オキシハライドるつぼを用いたチタン溶解実験

図11 Y₂O₃-YF₃系状態図とY-O-F三元系等温状態図(2000 K)
図11 Y₂O₃-YF₃系状態図とY-O-F三元系等温状態図(2000 K)
図12 YOFるつぼ内でのチタン溶解実験の前後写真・最近の研究進展
図12 YOFるつぼ内でのチタン溶解実験の前後写真・最近の研究進展

Y₂O₃-YF₃ 系擬二元系状態図(図11左)によると、チタンが溶融する温度域(約2,000 K)ではオキシハライド塩は固体として、YF₃は液体として存在する。これを利用してYOF るつぼを独自に設計・作製した。

実証:YOF るつぼ内でチタンを溶解・鋳造できることを確認。
水冷銅以外のるつぼでチタンを溶解・鋳造できるという発明は、チタンの溶解技術において、これまでになく画期的である。

最近の研究進展(Mo サセプターを用いる脱酸テスト)

独自に考案・開発・作製した"オキシハライドるつぼ"を用いたチタンの溶解実験は順調に進展しており、熱力学的な解析研究(基礎研究)も並行して展開している。

私たちの夢

図13 私たちの夢と長期ビジョン
図13 私たちの夢と長期ビジョン

鉱石から製造するスポンジチタン(1次原料)よりも、再生チタンスクラップ(2次原料)の純度のほうが高くなるような新技術(革新的アップグレード技術)を開発する。

まとめ(評価項目)

図14 まとめ:評価項目の概要
図14 まとめ:評価項目の概要
(a)学術的重要性

チタン中の不純物酸素を直接除去できる研究者がほとんど存在しない。希土類を含む反応系を利用する酸素除去メカニズムは学術的にも不明な点が多く、基礎研究の推進が社会的意義を持つ。

(b)研究計画・方法の妥当性

予備的な実験・検証はすでに開始。"オキシハライドるつぼ"を用いたチタン溶解実験は進んでおり、研究は大きく進展している。産業上も重要かつ緊急性が高い課題。

(c)研究遂行能力・研究環境

基本的な研究インフラは整備済み。技術・ノウハウの蓄積もある。研究代表者の研究室には多数のリサーチフェローや協力研究員が在籍。

本研究は国内だけでなく海外の研究機関や企業からも注目されている。独創性・革新性が高い日本発のチタン新精錬法が開発されれば、学術上・産業上のインパクトは大きい

関連論文・知的財産(特許)戦略

図15 最近の研究成果(論文リスト)
図15 最近の研究成果(論文リスト)

主要論文(本研究に強く関連するもの)

[文献6] T. H. Okabe, L. Kong, and T. Ouchi: 'Thermodynamic Consideration of Direct Oxygen Removal from Titanium by Utilizing Vapor of Rare Earth Metals', Metallurgical and Materials Transactions B, vol.53, no.2 (2022) pp.1269–1282. DOI

[文献7] T. H. Okabe, G. Kamimura, and T. Ouchi: 'Thermodynamic Consideration of the Direct Removal of Oxygen from Titanium by Utilizing Metallothermic Reduction of Rare Earth Metal Halides', Metallurgical and Materials Transactions B, vol.55, no.5 (2024) pp.4015–4026. DOI

[文献8(実証論文)] T. H. Okabe, G. Kamimura, T. Ikeda, and T. Ouchi: 'Direct Production of Low-Oxygen-Concentration Titanium from Molten Titanium', Nature Communications, 15 (2024) 5015. DOI → チタンの業界では大きな反響を呼んでいる

G. Kamimura, T. Ouchi, and T. H. Okabe: 'Thermodynamic Consideration on the Deoxidation of Liquid Titanium Using a Rare-earth Element and Fluoride Flux', JOM, vol.77, no.9 (2025) pp.6887–6902. DOI

T. H. Okabe, T. Kaneko, G. Kamimura, and T. Ouchi: 'Feasibility Study of Rapid Solid-State Deoxidation of Titanium Utilizing Rare-Earth Oxyfluoride Formation at Temperatures Approaching 1900 K', Metallurgical and Materials Transactions B, (2026) (in print)

知的財産(特許)戦略

本研究に関係する発明は産業上の利用価値も高いため、知的財産(特許)戦略に重点を置いている。PCT国際出願も行っており、チタン生産国(中国・ロシア・カザフスタン)および需要国(米国・フランス)への移行を予定している。

① 基本特許:チタンまたはチタン合金の製造方法

発明者:岡部徹, 上村源, 池田貴, 大内隆成|日本 特願2023-117129 [2023.7.18出願]|国際出願 PCT/JP2024/015012 [2024.4.15出願]
(希土類金属を脱酸剤として利用し、オキシハライド塩の生成反応を利用し、極低酸素濃度のチタンを製造する発明)

② オキシハライドるつぼの特許:チタンまたはチタン合金の製造方法、容器、装置

発明者:岡部徹, 池田貴, 上村源, 大内隆成|日本 特願2024-232354 [2024.12.27出願]

③ 周辺特許:チタンまたはチタン合金の製造方法、製造装置

発明者:岡部徹|日本 特願2025-184786 [2025.10.31出願]
(電気化学的手法で脱酸剤となる希土類金属を溶融塩から直接製造し、チタンの脱酸を行う発明)

④ 近日出願予定:チタンまたはチタン合金の製造方法、モールドフラックス、装置

発明者:岡部徹, 池田貴, 金子拓実(オキシハライド系モールドフラックスを用いてチタンを凝固・製造する発明)