原料を含む成形体(プリフォーム)をあらかじめ作製し、これを還元剤の蒸気で還元することにより、均一な粉末を効率良く製造する新しいプロセスについて研究を行っている。この手法は、原料成形体と反応容器との接触部位を限定し、還元剤の蒸気を用いる還元手法であるため、反応容器や還元剤からの汚染を効果的に防止できる。また、還元プロセスの(半)連続化・大型化も容易に達成できるので、次世代のレアメタルの粉末製造法として発展する可能性がある。このプリフォーム還元法(PRP)を用いてチタン、ニオブ、タンタル粉末の製造を試みた結果、還元時の熱処理条件や原料成形体に加えるフラックスを変化させることにより、均一で高純度の金属粉末を製造できることが明らかとなった。さらに、フラックスの種類や量を変化させることにより得られる金属粒子の粒径を制御できることがわかった。最近は、還元剤を含む液体合金を用いて反応系内の還元剤の蒸気圧を制御することにより、得られる金属粉末の純度や粒度を制御する新しい手法の開発を行っている。
希土類金属、タンタル、インジウム、貴金属などのレアメタル金属は、磁石や電子材料用素材としてその需要が急速に増大している。一例を挙げると、IT革命により高性能コンデンサであるタンタルコンデンサは需要が急増し、タンタル素材の価格は急騰する事態にも直面した。また近年は、電子材料用の稀少なレアメタルだけでなく、多くのレアメタル素材の需要が増大し、供給体制が逼迫しているものが多くなっている。このような背景からタンタルコンデンサのスクラップからタンタルを効率良く分離・回収する新しいプロセスの開発を行ってきた。最近は、タンタルだけでなく各種有価レアメタルの環境調和型リサイクルプロセスの設計と関連する反応解析を行っている。
参考文献:36, 37, 38, 43, 44, 45, 47, 50, J11
溶融塩中で電気化学的な手法を用いて酸化チタンを直接還元して金属チタンを製造する基礎実験を行っている。具体的には原料のTiO2を焼結し電極として成形後、カソード(陰極)として溶融CaCl2中に浸漬し、金属還元剤(Ca)が放出する電子により酸化物原料を還元し金属チタンを直接製造する方法(EMR)などについて検討している。チタンの鉱石は酸化物として産出するため、本プロセスが確立できれば原料の製造工程が簡略化され、プロセスが連続化できる利点があり、チタンの新製錬法として発展する可能性がある。しかし、実際には得られるチタンの純度や溶融塩の分離方法の確立、還元剤Caの効率の良い電解製造法の開発等、解決しなくてはならない点が多い。最近は、溶融塩電解による金属カルシウムの製造に関する研究に注力している。
参考文献:20, 48, P13, P19, R11, R14
自動車排ガスの世界的な規制強化により白金やロジウムなどの貴金属を含む排ガス触媒の需要が急増している。また、燃料電池などの新エネルギーデバイスの開発の進展に伴い、白金などの貴金属の需要は今後もさらに増大することが予想される。貴金属は、原料となる鉱石の品位が非常に低いため採取・製錬が困難であるため、抽出には時間と多大なコストがかかるだけでなく、地球環境に多大な負荷を与える。このため、触媒などのスクラップから高い収率で貴金属を回収することは重要な課題であるが、現時点では効率の良いプロセスは開発されていない。本研究室では、活性金属蒸気を利用してスクラップから効率良く目的の貴金属を溶解・抽出する新しい溶解・分離プロセスの開発を行っている。また、塩化物などを利用することにより、強力な酸化剤を含まない溶液を用いて貴金属を溶解・回収する環境調和型の新規プロセスの開発を目指した研究を行っている。
現在のチタンの量産プロセスであるクロール法は、確実に高純度のチタンが得られる点で優れているが、原料としてTiCl4を利用するため還元プロセスにおける反応熱が非常に大きく、最新鋭の大型設備を用いても生産速度が1 t/day・reactorと非常に遅い。さらに、プロセスの連続化が困難で、反応容器から鉄などの汚染の防御も困難である。このような背景から、現行のチタンの製造プロセスが抱える本質的な問題からの脱却を目指し、マグネシウム熱還元法を基盤にチタンの低級塩化物(サブハライド:TiCl3, TiCl2)を原料として用いる新しいタイプの高速還元法の開発を行っている。高温でも凝縮相であるサブハライドを原料として用いてチタンを製造する反応は、反応密度を大幅に増大できるだけでなく、クロール法に比べて反応生成熱が半分以下と小さいため、還元プロセスの高速化に適している。さらに、反応容器としてチタンを利用できるため、鉄などの汚染を効果的に防御することも可能である。
タンタルは、コンデンサなどの電荷デバイス材料用素材としてその需要が急速に増大している。一例を挙げると、情報通信機器の小型化・高性能化が飛躍的に進み高性能コンデンサであるタンタルコンデンサの需要が急増した結果、タンタル素材の供給が逼迫し価格が急騰したこともあった。タンタルの代替品としてニオブ粉末の製造プロセスの確立が重要となっているため、当研究室では、アルミニウム熱還元法により製造された安価なニオブ(ATR-Nb)を利用し、電気化学的な手法を用いて溶融塩中でニオブ粉末を製造する新しいプロセスの開発を行っている。この方法を利用すれば、純度が低いバルク(塊)状のニオブから、直接、高純度の粉末状のニオブを製造できるため、新しいタイプの低コスト製造プロセスとして期待される。
参考文献:P30
チタン製錬などの塩化製錬プロセスから発生する塩化物廃棄物を有効利用する環境調和型のプロセス開発を行っている。塩化製錬から発生する塩化物廃棄物は、プロセスの塩素ロスの一因となっているが、現状ではこのロスを補償するため、外部から塩素ガスを新たに購入している。また、我が国の環境規制は厳しいため、多大なコストと手間をかけて発生する塩化物廃棄物は処理されている。現状では、不純物濃度が低い高価な原料を購入し、極力塩化物廃棄物の発生量を低減しているが、将来的には不純物濃度が高い原料を用いる必要が生じる可能性がある。このような背景から、塩化物廃棄物中のFeClxなどの塩化物を塩化剤として有効利用する新規プロセスの開発を行っている。一例として、塩化物廃棄物を塩化剤として利用してチタンスクラップを塩化し、有価な塩化物原料(TiCl4)を製造すると同時に、廃棄物中の塩素量を低減する新しいプロセスの開発を行っている。また、貴金属などのレアメタル化合物の塩化反応への応用も検討している。
チタン鉱石中の主な不純物は鉄であり、今後、チタン鉱石の品位は低下する傾向にあるため効率の良い脱鉄プロセスの開発は重要である。このため、鉱石から効率良く脱鉄し、高純度の酸化物チタン原料を製造する各種プロセスの開発を行っている。具体的には、高温でチタン鉱石と塩化剤を反応させ脱鉄を行う選択塩化法に関する研究を行っている。脱鉄後得られた酸化チタン原料は、電気化学的な手法やプリフォーム還元法により直接、金属チタンに還元することができる。脱鉄反応により生成する塩化鉄の有効利用法(前項7.参照)だけでなく、最近は電気化学的な手法を用いた新しいタイプの選択脱鉄反応についても検討を行っている。
レアメタルの中には、チタンやマグネシウムなど資源的に極めて豊富に存在するものから、スカンジウムやレニウム、貴金属元素など地殻中の存在量が非常に少ないものもある。稀少なレアメタルの中でも、貴金属などの製錬については研究が進み、すでに効率の良いプロセス技術が確立されているが、スカンジウムなどの稀少なレアメタルの製造プロセスに関する研究はほとんど進んでいない。最近は、スカンジウムやレニウムなどのマイナーなレアメタルの新規製造プロセスの開発研究を行っている。
参考文献:28
環境調和型プロセス、リサイクル技術の開発を目指し、有害物質の生成反応の解析とその防止策の検討、反応の最適化による製品の高効率合成、 さらには、副生成物・廃棄物の再利用に関する新しいプロセスの検討などを行った。また、オキシハライドの生成反応を利用するレアメタル素材の再生プロセス、さらには、電気化学的手法を用いた窒素の除去についても検討した。
具体的には、アルミニウム電解時にアノードから発生するCF4およびC2F6ガスの発生メカニズムの解析、 塩素を含む高温プロセスにおける塩化物の挙動の解析、アルミニウムスクラップを還元剤として利用するチタンの新還元プロセスの開発 (26)、磁石製造時に発生する希土類金属スクラップのリサイクルプロセス (10,12)、 硫化物から効率よく有価金属を回収する環境調和型プロセスの検討(23,27,28)など、 熱力学を基盤とする解析を中心にした研究を行った。
現状のチタンの製造プロセスは多くのエネルギーを消費し、また生産速度が低い。資源的に豊富で、 軽量かつ強度があり抜群の耐食性を備えたチタン素材を広く普及させるためには、現行の製造プロセスからの脱却・新製造技術の確立が不可欠であるため、 新しいタイプの省エネルギー・高速製造プロセスや高純度化技術の開発を多角的に行った。
一例を挙げると、溶融塩と活性金属の液体を機械的に強攪拌することにより、溶融塩・液体金属微細混合物を合成し、 これを反応媒体として用いて金属粉末を製造する新しいプロセスの研究を行った。 専用のWell型攪拌装置を自作してMgCl2などの溶融塩と液体マグネシウムを 800 ℃−1000 rpmで混合し、 この反応媒体中にTiCl4を直接投入して直接粉末状のチタンを製造する実験を行い、 チタンの還元プロセスの反応速度を飛躍的に向上する要素技術の確立を行った。
希土類金属やチタンなどの活性金属は、磁石や電子材料用素材としてその需要が急速に増大しており、素材の高純度化・再生・ 汚染防御等の諸技術の確立が今後の重要な課題である。活性金属中の金属成分不純物の除去については種々有効なプロセスが開発、 実践されているが、 酸素をはじめとするガス成分不純物の除去については、現在のところ効果的な除去プロセスが確立されていない。 このため、一度汚染され酸素濃度が増大した金属素材を直接処理し再生することは不可能とされてきた。このような背景から、 活性金属中の主要不純物である酸素や窒素を直接除去する手法について基礎研究を行い、活性金属の高純度化ならびに汚染防御の基盤技術の開発を行った。 具体的には、カルシウム−ハライドフラックス脱酸法を独自に開発し、 電気化学的手法を用いて高い濃度の酸素を含む活性金属から酸素を直接除去し10 ppmレベルまで低減できることを実証した。 (J2,4,6,7,8,12,14)
新プロセスの開発だけではなく極めて低い酸素ポテンシャルにおける金属−酸素固溶体の熱力学的研究も行い、 開発した脱酸技術の有効性に対する定量的な評価も行った。また、オキシハライドの生成に着目し、 金属中の固溶酸素を直接除去して 金属を高純度化する新しい手法の可能性について、さらには、 電気化学的手法を用いた窒素の除去についても検討した。 (3,9,10,12)
導伝体を介した反応(EMR: Electronically Mediated Reaction)という新しい概念をチタン、タンタルなどのレアメタルの製造に導入し、 高効率プロセスの開発とレアメタル素材の高機能化を達成するための基礎的な研究を行った。さらに、 金属熱還元反応における電子およびイオンの動きを積極的にコントロールすることによって、反応や析出形態・部位を制御し、 レアメタルを効率よく製造する新プロセスを開発した。EMR制御による素材プロセスは、 析出部位・形態の制御ならびにプロセスの連続化を可能とするだけでなく、原料の選択性の拡大にも応用可能であるため、たとえば、 アルミスクラップを原料とした環境調和型の純チタン製造プロセスの開発にも応用できる。 (J3-J7,20,26,33)
金属熱還元反応における還元メカニズムの解析を通じて得た知見をもとに、反応媒体を有効利用したレアメタルの新しい製造プロセスの開発も行った。 一例をあげると、溶融塩・液体金属の微細混合体を利用し、 チタンあるいはニオブなどのレアメタル粉末を効率よく製造するプロセスを中心に基礎的な研究を行った。 溶融塩・溶融金属の界面における電子およびイオンの早い動きを積極的に利用して微細な金属粉末を製造する新しいプロセスの開発は、 プロセスの連続化を可能とするだけではなく、超高速還元プロセスの開発にも応用できるため、 現在の金属熱還元プロセスの生産性を飛躍的に向上させる可能性が期待できる。
窒素センサーの開発や窒素ポテンシャルの新しい制御手法の確立を目指して、 複合窒化物や窒素イオンを含む融体の電気化学的な性質の調査をもとに多成分系窒化物の相平衡や合成に関する研究を行った。窒化物の合成と分析に関する基盤技術の確立に関する研究を行うと同時に、 予備的な試験としてLiClもしくは LiCl-KCl混合溶融塩にLi3Nを溶解し、融体中のN3-イオンの酸化反応について電気化学的測定を行った。 (29,31) また、Li-M-N (M = Al, Ga, Mg…) 系複合窒化物を合成し、 複合窒化物の熱力学的な安定性を固体電解質を用いた起電力法による測定を行った。 窒素ポテンシャルを測定・制御する技術が確立できれば、GaNをはじめとする機能性窒化物の合成プロセスに役立つだけでなく、 新しいタイプの窒素センサーの開発につながる可能性がある。
銅やモリブデンなどの鉱石は主として硫化物として産出するが、高温プロセスを用いてこれらのレアメタル金属を製造する場合、 多量の酸素を消費し、反応生成物として硫酸(またはSOx)を生じる。この高温プロセスは反応速度が早く生産性が高い反面、 地球環境との調和を考慮すると必ずしも最適なプロセスとは言えない。このため、モリブデンをはじめとする安定した硫化物を、 電解酸化を利用して効率良く溶解し高温プロセスを経由しないで高純度のモリブデン化合物を回収する研究を行った。 (23,27,28) さらに、グラインディングをはじめとする機械的な手法を用いて安定な硫化物を活性化し、 有価金属とエレメンタルサルファー(硫黄)に直接分離する新しい環境調和型の湿式素材プロセスの研究開発を試みた。
複合酸化物の相平衡関係を平衡実験により決定し、複合酸化物の熱力学的な安定性は起電力法により測定した。 一連の実験結果の情報をもとに、 様々な種類の多元系化学ポテンシャル図を作成し、相平衡関係と熱力学的な安定性について定量的な評価を行った。 (15-22,24,25,30)
化合物の熱力学的安定性を評価するうえで、化学ポテンシャル空間を基軸とした相平衡関係の解析は有効である。 そこで、 化学ポテンシャル図をうまく利用し、金属熱還元反応における反応経路の解析も行った。 (J4,J7,11,20) 一例をあげるとTi-Mg-Cl系3元系等温化学ポテンシャル図を作成し、 塩化物の金属マグネシウムによる還元反応の反応経路の解析を行った。
前述、第12項の活性金属からの酸素・窒素の除去に関する研究と関連しているが、従来にない高純度の金属素材の製造を目的とした研究を行った。 多くの高純度金属素材は、金属不純物元素はppmレベルの低濃度に制御されているが、酸素をはじめとするガス成分不純物はあまり制御されておらず、 特に活性金属については1000から数千ppmの酸素を含んでいる場合が多い。不純物濃度が1ppm以下(純度6N)の超高純度チタンは、脱酸した結果、 酸素濃度が10 ppmレベルの試料を製造することができた。 チタンは高純度のものでも酸素濃度が高く、残留抵抗比(RRR)が100以下のものがほとんどであるが、 カルシウム−ハライドフラックス脱酸法によりRRRが100以上の世界最レベルの純度のチタンの製造に成功した。 また、希土類金属についても1000 ppm以上の高い酸素レベルの金属を直接脱酸し、短時間で数十ppmレベルにまで低減する技術を開発した (4,6,8,12,14) 。磁性材料用の高純度マンガンなどへもこの高純度化手法の応用を検討した。
溶融塩と活性金属の液体を機械的に強攪拌することにより、溶融塩・液体金属微細混合物を合成し、これを反応媒体として用いて金属粉末を製造する新しいプロセスの研究を行っている。一例を挙げると、MgCl2などの溶融塩と液体マグネシウムを800 ℃−1000 rpmで混合し、この反応媒体中にTiCl4やNb2O5を直接投入して直接粉末状のチタンやニオブを製造する実験を行った。また、レアメタルの粉末製造だけではなく、この溶融塩・液体金属微細混合体を有害化合物の処理等、無害化プロセスへ応用する新しいプロセスについても検討を行った。
チタンやニオブなどの酸化物を金属カルシウムで還元し、直接高純度の金属粉末を製造する実験を行った(1,2,5,J1) 。また、アルミニウムを含む酸化物原料を直接還元し、 目的とする組成のTi-AlもしくはNb-Al金属間化合物粉末を酸化物から直接製造する手法を開発した。
希土類金属オキシハライド(REOCl)をはじめ熱力学的に安定なオキシハライドの存在は広く知られている。 この化合物の生成反応を利用すれば、新しいレアメタル製造プロセスが可能となるが、現状ではオキシハライドの熱力学的安定性に関するデータは乏しく、 とくに高温における定量的な評価はなされていない。このため、高温におけるオキシハライドの熱力学的性質の測定および評価を試み、オキシハライドの生成反応を利用するレアメタルの高純度化およびスクラップの再利用技術の開発を行った。
高純度金属を製造するプロセス開発の一環として、硝酸酸性水溶液からの銀や銅など電析に関する基礎的な研究を行った。 硝酸浴を利用する銅の還元プロセスでは、銅イオン以外の硝酸イオンも還元され亜硝酸が生成する場合がある。 この亜硝酸の生成反応が電解効率を低下させるため、銅電解時における還元反応について種々の電気化学的な手法を用いて解析を行った。硫酸浴からの亜鉛の電析における微量ゲルマニウムの挙動についても検討した。
電子ビーム溶解炉を用いた高融点金属の溶解に関する基礎的な研究を行った。 ニオブやタングステンなどの超高融点金属を大型電子ビーム溶解炉を用いて溶解し、金属融体を水冷銅坩堝に鋳込んで高純度の高融点金属を製造した。 また、高真空下における融体中の不純物元素の蒸発挙動についても熱力学的に解析した。
ヨウ化物の不均化反応や、多元系における揮発性の塩化物の熱力学的な解析を行い、蒸発挙動や分解反応について検討し、現行プロセスと比較した。 一例として、ヨード法による電子材料用超高純度チタンを製造するプロセスにおける微量不純物元素の挙動について熱力学的な解析を行った。溶融塩中の不均化反応を利用してレアメタルの粉末やバルク(塊)を製造する新しい手法についても検討した。